2017/05/29

豊洲市場・土壌汚染対策等に関する公開質問状

2017年5月29日に、豊洲土壌汚染に関する公開質問状が各務氏らより東京都中央卸売市場部へ提出されました。 各務氏からのご依頼により、その全文を以下に記載いたします。

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                              2017年5月29日

豊洲市場における土壌汚染対策等に関する専門家会議
平田 健正 座長 様

          各務裕史(元岡山県農林水産総合センター農業研究所副所長)
         ◯畑明郎(日本環境学会元会長)、水谷和子(一級建築士)、
          坂巻幸雄(日本環境学会元副会長) [◯印は連絡代表者]



              [公開質問状]

「豊洲市場における土壌汚染対策等に関する専門家会議」での計算間違いに基づく
    地上部分の安全性評価錯誤の是正など4項目の疑義に関するご質問

 貴職におかれましては、豊洲市場の環境に関する諸問題に取り組まれ、都民と市場で働かれる方々の安全と安心を求めて鋭意検討いただき、とくに、市場関係者に寄り添い疑問や要望を丁寧に時間をかけてお聞きいただき、お答えを下さる姿勢に深く感謝しております。

 さて、豊洲市場におきましては、汚染残置が明らかになるとともに、地下水位も3月末から上昇を続けており、移転後の食品と労働環境悪化が懸念されます。
現在進められている専門家会議では、汚染の実態を明らかにし安全のための対策案をお示し頂いた段階と存じますが、計算間違いや事実誤認に基づいた地上部分は安全とする拙速な判断が流布されていることへの疑念と、先々の市場運営や市場で業務に当たる方々、市場を訪れる方々、市場の品を利用する全国のユーザーの健康への影響と不安が心配されます。

 つきましては、下記質問への対応をご検討のうえ1~2週間以内に文書にてご回答いただきたく存じますのでよろしくお願いいたします。


1.地下ピット空気ベンゼン濃度の計算間違いに基づく地上部分の安全性評価錯誤
  の是正

 2017年1月14日の第4回専門家会議において、「地下水が環境基準を超えたことが都民の食の安全へ及ぼす影響を聞きたい」という質問者の問いに対し平田座長の回答は、
「前の専門家会議のときでも問題になりましたのは、では、土壌に触れても大丈夫だと。地下水は使わないから大丈夫だと。でも、揮発性物質は気化してくるじゃないかということだと思うんです。では、どの程度のものが気化をしてくるのかということを前のときは計算したんです。そういたしますと、地下水、ベンゼンでいきますと、1ppmですよね。環境基準の100倍ぐらいの濃度であっても十分に環境基準は満たせるということ。お魚あるいは野菜の表面についている水にくっつくベンゼンの濃度というのは、それよりもさらに100分の1ぐらい小さいということで、まず安全に間違いないということを結論として申し上げたんです。 そういう意味では、食の安全という意味で言いますと、この汚染であっても、私はそんなに大きな問題があるというふうには考えてございません。」
でした。

 要約すると、環境基準の100倍のベンゼンを含む地下水があっても地上に揮発する量は空気の環境基準以下であるので問題ないとの認識を示しています。しかし、これには大きな間違いがあって計算数値は4.5mの盛り土を前提としたものであり、盛り土がない場合には地下ピットは基準値の7万5000倍の濃度になります。これは明らかに大きな事実誤認です。

 100倍の汚染地下水は全体で平均化され、これが10分の1(排水基準相当)に、または100分の1程度に希釈されて地下水環境基準になったとしても、ベンゼンが気化しやすいことと、大気からの摂取が多い(1日当たり水は2L飲用、大気は15m3呼吸)ため大気環境基準は厳しく設定されていることから地下ピットの大気は、環境基準の7,500倍または750倍と非常に高い値になります。


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            注:地下ピットの空気中ベンゼン濃度の推定方法

   盛り土のない地下ピットでは地下水が表面又は砕石層中にあり、空気中のベ
   ンゼン濃度は地下水と気液平衡状態になる。その濃度は以下の計算より求む。
   水分中濃度(mg/L)=地上空気中濃度(mg/m3 )/ヘンリー定数/1000
   地上空気中濃度=水分中濃度×ヘンリー定数×1000
   平田座長が述べた計算例では、水分中濃度が1ppm=1mg/Lに設定され、
   ベンゼンのヘンリー定数は0.227であるので、
   地上空気中濃度=1×0.227×1000=227mg/m3
   空気中ベンゼンの環境基準は0.003mg/m3であるので、
   倍率は227/0.003=75,666倍となる。
         (注:専門家会議報告書資料7の8頁、式11より求む)
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 市場1階は地下ピットと床コンクリートで隔てられているため1階は安全と見る考え方もあり、現に12月22日の1階空気中ベンゼン濃度は基準以下となっております。しかし、委員も認めているとおりコンクリートは劣化で微細なひびや亀裂が発生するものであり、いずれ高濃度ベンゼン空気が1階に侵入すると考えなければなりません。このことに関して都が2015年3月に日水コンに報告させた『豊洲新市場事業における地下水管理システムに関する施設等修正報告書』において、床下空間の土壌充填の有無による大気暴露を検討し、ベンゼンが床コンクリートの隙間や亀裂から建物内に侵入して人の健康や生鮮食料品へ及ぼす影響を評価しています。評価は前の専門家会議で適用されたリスク評価モデルを用いて行なっています。

 その結果、表1モデル2のように10万人に1人の発がんリスクにおける許容地下水環境基準倍率は約11倍となっています。しかし、このモデルは砕石を盛り土とみなして土壌の物性値を当てはめ、一方で毛管帯幅は盛り土下部の10cmに限定するというちぐはぐなものとなっています。

 そこで、実際の砕石によるモデルで地下水位がAP2.0mとして計算するとモデル3のとおり許容地下水環境基準倍率は0.8倍となり、厳しく管理する必要があることが分かります。さらに、6街区などの地下水位がAP2.5mで計算するとモデル4のとおり基準の0.1倍で管理しなければならない極めて厳しい事態が想定される訳で、その点からも地下水位を下げなければならないという訳です。

一方、実際にすべて毛細管水を含む50cmの盛土がある場合には、拡散が強く抑制されるため許容地下水環境基準倍率は42倍となり、濃い地下水でも地上は安全になるという盛土の力が改めて認識できる訳であります。

 この報告書においても明らかなように都は地下空間のベンゼンが床コンクリートを透過して地上に危険を及ぼす可能性を認識してはいるものの、1階大気中ベンゼン濃度を大幅に低く見積もり、安全への配慮が十分とは言えない結果となっていると考えますがいかがでしょうか。

 専門家会議では審議されていないものの対策案を提示されましたが、汚染が土壌にも残っているのかどうか、その規模はどれ程か、汚染の場所、深さなどを明らかにすることもなく対策を考えるのはいかがなものでしょうか。また、前述しましたように専門家会議の盛り土がない場合の地上部ベンゼン濃度の大幅な認識間違いに加え、実態を明らかにせずして対策を考え、しかも最終的な効果確認を経ずして地上は安全との判断はいかにも杜撰で拙速と言わざるを得ませんがいかがでしょうか。

 なお、現時点で地下ピットの空気ベンゼン濃度が低いのは、ベンゼンが地下深くに存在するためであり、そのベンゼンは長期間を経て拡散し表層付近に上昇するものと考えています。



参考:水銀の地下水許容濃度の試算について

 地上における水銀濃度に及ぼす盛り土の効果を検討するため3種のモデルにより人の健康リスクからみた許容地下水環境基準倍率を試算した。

 その結果、水銀の場合には換気と盛り土があれば地下水濃度は環境基準の558倍まで許容できるが、換気があっても盛り土がないと地上の濃度は高くなり、地下水濃度は環境基準の6%以下までしか許容できない値となった。

 現況の6街区ピット条件に近いモデルでは、地下水濃度は環境基準の2%以下までしか許容できない値となった。

 水銀においても盛り土の高い遮蔽効果が伺われ、盛り土がない条件では、地下水は環境基準よりはるかに低い濃度に管理する必要がある。




2.今後の地下水位予測

 測所の値を用い、地下水位は都公表21地点の値を平均して市場全体の地下水位の値としました。

 豊洲市場には、過剰な地下水を汲み上げて排水することにより、計画水位であるAP1.8mに維持する地下水管理システムが構築されています。

 このシステムの目的としては、東京都が作成した地下水管理システム条件設定理由書には、
「万が一、当該システムが機能しなければ、汚染地下水の上昇や地震時の液状化に伴い、汚染が地表面へ噴出すること等が懸念され、市場の安全・安心が確保できない」
と記され、地上の汚染を防ぐ重要なシステムであると位置付けられています。

 しかし、地下水管理システムは2016年10月14日から本格稼働を開始しましたが、稼働開始から乾期を含む6カ月以上が経過してもなお、計画水位には市場全体平均で1m以上も到達しておらず、現在では降雨が増えるとともに上昇中であります。

 地下水位は雨による上部からの水の供給に対し緑地からの蒸発散および揚水と漏水とによる排水量との駆け引きで決まる比較的分かりやすい物理量であることから降水量を推定すれば将来の水位も容易に予測できるものであります。ただし、緑地からの蒸発散は主に表層の土壌水分の減少に寄与するけれども、地下水位への影響は無視できる量であると考えました。予測モデルは、地下水位の日々の変動量を目的変数とし、降水量、地下水位、地下水位2乗値を説明変数とし、10月4日から12月2日までのデータを用いて回帰分析を行い次の重回帰式を得ました。なお、雨量は江戸川臨海観測所の値を用い、地下水位は都公表21地点の値を平均して市場全体の地下水位の値としました。

水位の日変化(m)=-0.105+0.0852×前日水位(m)-0.01869×前日水位の2乗値
+0.00717×雨量(mm)  R2=0.81

 10月3日の地下水位を初期値とし江戸川臨海観測所雨量のみを毎日入力することで、予測地下水位を求め実測値とともに経時的に図1に示しました。


         図1 豊洲市場地下水位の実測値と予測値の推移

 地下水位の予測値は実績値と極似通った変動を示し、この予測式を適用して将来の地下水位を推定できると考えられます。

 そこで、4月26日までは実績雨量を、その後は平年雨量を代入して2017年11月1日までの予測を試みた結果は、図2のようになります。

 この予測によると地下水位は、季節的な雨量の多少に基づいて上下しながら次第に上昇し10月中旬ごろにAP3.7mに達するものと予想されます。

 とくに、建物外部の盛り土のある敷地では、計画では地下水の地表部への浸透上昇を防ぐため毛細管を遮断する砕石層をわざわざ設けているにもかかわらず、現状では常に盛り土が汚染地下水に浸されていて再汚染が懸念される状況にある訳で速やかな対策が必要です。


            図2 豊洲市場地下水位の将来予測
       注:江戸川臨海観測所の平年雨量を予測式に代入して求めた

 なお、この予測は昨年12月にはできており、計画水位には下がらない可能性が高いことを情報として都にお伝えしましたが、都は2回目から5回目までの専門家会議では常に「地下水は順調に低下している」との誤った認識を示し、適切な対策を取り損なったことは誠に残念としか思えません。



3.モニタリング値への揚水の影響考察における誤認

 2年間に9回実施した地下水モニタリングの汚染濃度が9回目に飛び抜けて高い値を示しました。その原因として専門家会議が上げた最有力のものは、「10月ぐらいから本格稼働し始めて、地下水流動、それから圧力的な差ができていって、その粘性土の中から少しずつ出ているんじゃないか(第5回専門家会議)」と指摘されていますが、これには次の疑問があります。

①揚水井戸が地下水に及ぼす影響の範囲はごく狭い

 豊洲市場帯水層の土壌透水係数を10-4乗、揚水井戸内外の水位差1.5m(水位がAP3m相当)、井戸半径0.25m、被圧帯水層5m、定数3,000と設定し、下に示した図書の方法に基づいて計算すると影響半径は4.5m、排水量は1基当たり1.41t/日、市場全体では81.7t/日と推定され、現状の地下水管理システムの実績に近い数値となります。
(http://www.mizukae.com/benkyokai/_src/sc645/huatudw01.pdf)
以上のことから、透水性の低い帯水層に井戸を設けて排水を図っても、排水量はごく少なくその影響範囲はごく狭いと考えるのが妥当です。

②建物下のモニタリング用井戸への揚水の影響は皆無に近い

 揚水の影響は井戸から数mのごく狭い範囲と考えられることから、揚水井戸がなく外部井戸から遠く離れた建物下のモニタリング用井戸への揚水の影響は皆無に近いと考えられます。

③外部より地下水位が低い建物下の地下水が外部の揚水井戸方面に移動することはない

 建物下の地下水位は概ね建物外部より低い(第5回専門家会議資料)ことから、たとえ外部で揚水を行なっても水頭に基づく水圧の低い建物内部地下から圧力の高い外部地下への地下水流動は起こり得ないと考えられます。

 以上のことから、9回目モニタリング値の急上昇の原因は揚水とは関係が薄いと考えられ、再採水の影響などと併せて、モニタリング当初から高い値が出ていた可能性も含めて予断のない慎重かつ厳密な検討をしていただきたいと考えます。



4.底設暗渠排水網の敷設を中心とした地下水管理の提案


 帯水層の透水係数公称値は公表されておりませんが、図3に示すように地下水位が一向に平準化されないこと、井戸への集水が少ないことなどから透水性がかなり劣っていて係数は10-4乗程度と推定されます。質問項目3において検討したように、透水性が劣り集水範囲の狭いこのような土壌では、井戸を用いた排水法は適用すべきではありません。

 しかし、専門家会議の対策案は井戸の改修や増設などを中心としたものであって、どれも大きな効果が見込めるものではなく、ここにおいても原因を調べずして作られた対策であるために見当違いとなっていると言わざるを得ません。

 湧水量は水頭差と湧水面の広さ(井戸表面積)に比例しますが、井戸は今でも有楽町層付近にまで掘削されていてこれ以上に深くすることは困難です。そこで、湧水面を広げられる工法として底設暗渠による排水促進を提案します。帯水層が透水係数で10-4乗程度の透水不良層であって揚水の影響半径が数mに止まることを考慮すると間隔は10m、深さは主な汚染残置部直下とする底設暗渠排水網の構築が必要と考えます。設置場所は建物外敷地とし、建物直下は雨水の供給がないため敷設は不要で、現在継続している強制排水で対応します。併せて雨水の透過を抑えるために緑地の舗装も必要です。

 底設暗渠工事は、6~8mの深さで勾配をつけながら延長で20km以上敷設するための深いトレンチを掘るという危険な大工事であり、20~25億円とされる井戸改修や増設よりも多額の工事費がかかり、維持管理費(年間3億円)も増えます。地下ピットの水銀等ガス侵入防止対策の工事費15~55億円や維持管理費(65年間)25~40億円も考慮すると、追加対策費用は最大120億円をはるかに超えるが、汚染を抱える排水不良地の地下水管理の重要性にかんがみ、困難ではあるが必要不可欠の対策であることは肝に銘じるべきです。



5.結論

 以上により、地下ピット内の汚染ガス対策と地下水位コントロールは、今回検証した問題をクリアしなければ抜本的な解決にはならないと確信します。一方、第6回専門家会議資料の[今後の対応策の具体的な検討状況](ただし審議未了)に今後の対策が示されています。これが十分な対策になっているかが問題となります。

 「地下ピットにおける水銀等ガス侵入防止対策(案)」(資料8-1)によれば、地下ピット内のガス侵入防止対策は、床面を遮蔽シートで覆うか、コンクリートの床を作ること、それに加え、強制換気を行うこととしています。現時点では5街区棟では砕石層が露出し、他の街区棟でも釜場として一部砕石層が剥き出しになっています。汚染物質を含んだ土壌粒子は地下水と共に出入りが自由な状態です。検証結果にあるように、ベンゼンや水銀の気化ガスが、かなり深刻な状態になることを考慮しなければなりません。提案されている床の対策は、地下4.5m~6mの土圧や水圧に耐える構造になっていません。また、地下ピット外周部は土留めのコンクリート擁壁に過ぎず、地下水の侵入を防ぐ遮水壁にはなっていませんから、気密性に問題が生じます。地下として耐える構造で、コンクリートの箱を作る必要があります。

 強制換気についてはこれまでのデータから、換気をすれば1階や外気、一部ピット内で空気の汚染濃度が高くなる現象が起きています。ピット内の気圧が下がることで、砕石層下からの汚染ガスの移流が進んでいることもうかがえます。強制換気という安易な結論は、再考されなければならないと考えます。

 [地下水管理システムの機能強化方法(案)]で示されている対策には、そもそも追加の強制揚水量の計算がされていませんし、対策の内容と規模、さらに工事費20~25億円の根拠が不明です。これまでの検証より、雨量の多い時期の一日の必要揚水量は600㎥、現時点の揚水量は60㎥ですから、現在の揚水井戸58本分の10倍の揚水量、つまり580本の揚水井戸を追加しなければなりません。

 汚染対策について、以上2点があげられていますが、土壌の残置汚染についての対策は明記されていません。第6回専門家会議のように、地下の対策で地上の汚染問題が解決できるような説明は、都民を愚弄するもので、できないのであればできないと明言すべきです。

 展望のない追加対策にこれ以上予算をつぎ込むよりも、豊洲移転をきっぱりとあきらめ、築地市場の再整備を目指すべきであります。

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